婚活するヒロインたち 結婚に役立つ名作案内 「若草物語」「細雪」

名作文学のヒロインたちから現代に役立つ結婚の知恵を学びます。―いろいろあるけれど、最後には笑おう ― 次はあなたがヒロインです。

2019年11月

ニューヨークに落ち着いたジョー

ローリーから日増しに気のあるそぶりをされるジョー。

しかし自分とローリーは、結婚に向かないと感じたジョーは、ニューヨークに行くことを決めます。

落ち着く先は、母の友人ミセス・カークの「大きな下宿屋さん」。小説の翻訳では「下宿屋」とされていますが、今で言う「長期滞在用の高級サービスアパートメント」といった感じでしょうか。
 
カーク夫人の幼い娘たちの家庭教師をしながら、ニューヨークで見聞を広げて小説に活かそうと、ジョーは意気込みます。

1868年のブロードウェイ(NY図書館)
「若草物語」が書かれた1868年当時のNYブロードウェイ風景。日本は明治維新の年です。(NY公共図書館蔵)

ジョーの関心をひいた二人の人物

カーク夫人の下宿で、ジョーはさっそく二人の人物に惹かれました。

一人は「お金持ちで教養があり やさしそうなミス・ノートン」というお嬢さん。彼女の部屋に招待されたジョーは、家族への手紙にこう記します。

本や絵を
たくさん持っていて、
いろいろな人も
知っていて、

そのうえ
親しみ深そうな方ですので、

私もお言葉に甘えようかと
思っています。


あまり社交的でないと自覚しているジョー、こんなことも書いています。

私だって
いい人たちとは
お近づきになりたいのです。

いい人たちといっても、
エイミーのとは
少し違いますけれど。


そしてもう一人ジョーが惹かれたのが、ドイツ人の紳士でした。ベア先生という愛称の紳士は、石炭を運ぶお手伝いの女の子に、手を貸していました。

ジョーはその様子に好感をもちます。

いい人じゃありません?
私こんなの大好きです。

お父さまのおっしゃるように、
ちょっとしたことが
人柄をしのばせるものですね。


しかしこのベア先生、食事のマナーは残念な様子。

エイミーが
あそこにい合わせたら、

あの子は
あの先生を永久に
見向きもしなくなった
だろうと思います。

残念なことに、
先生は非常な
健啖家なのです。


あのがつがつ
掻っ込む様子を見たら、

「貴婦人」エイミーは
寒気を催したことでしょう。

しかしジョーは「なんでもおいしそうに食べる人」が好き、と気にしていません。


エイミーを意識しているジョー

ニューヨークの様子を、コンコードの家族に書き送るジョーですが、何かと、妹エイミーを引き合いに出しているところが面白いですね。

お年頃になった姉妹は、社交に関する意識のちがいで、よく言い争いになっていました。

小)two ladys ホーマー1880 メト
生き方のちがいが出てきた姉妹。(メトロポリタン美術館蔵)

妹エイミーは、家柄や財産や礼儀正しさを持つ人が大好きで世渡り上手。対して姉のジョーは、その人の「心意気」に惹かれます。本音を隠せないジョーは、人間関係も滞りがち。

ジョーとしては、妹の方が要領よく楽しい人生を送れていることに、少々割のあわない思いです。

自分でも持て余しがちな、この気の強さで、しかしジョーはさっそくニューヨークで執筆活動を始めました。はたしてどんな可能性が、広がっているのでしょうか。

※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。



日本の四姉妹『細雪』の雪子と妙子も対照的です

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作者オルコットの分身、ジョーの自立の物語

エイミーの大人になる旅は、ステキな結婚相手と巡り合い、ひとまず幕を閉じました。

結ばれた二人の様子を見届ける前に、ここからはしばらく、アメリカに残されていたジョーの日々をみていきたいと思います。

エイミーの結婚によって、ようやく自分も誰かと一緒にいたい!と思い始めたジョー。しかしエイミーが旅立った当初、ジョーは「作家になりたい」というキャリア志向で、まったく恋愛気はありませんでした。

ジョーのモデルは、作者オルコット自身ですから、これから見ていくジョーのニューヨーク物語には、残念ながら期待するほど、ロマンティックな要素は見当たりません。
 
でもジョーは、家を離れてひとりニューヨークで見聞を広げたことで成長し、人を受け入れる許容量が広がったようです。

このブログでは、そんな彼女の物語を、さっくりと見ていくことにしましょう。


妹がヨーロッパ滞在中に、ジョーが経験していたことは?

ジョーはある日、ニューヨークに滞在できたらと、母親に相談をもちかけました。幼なじみのローリーが示す愛情から逃れたくて、家を離れることに決めたのです。。

母親に理由を聞かれたジョーは、「さっと頬を染めて」こう言います。

こんなことを言ったって
むだかもしれませんし、
言わないほうがいいのかも
しれないんですけど―

ローリーが私を好きに
なりすぎてるんじゃないか
と思うんです


マーチ夫人は気がかりな様子で質問します。

じゃあ、あなたのほうでは、
あのひとがあなたを好きなほど、
好きではないというんですね?


ジョーの答えはというと

…私だってあのひとは
今までどおり好きですし、
自慢にも思っています。

でもそれ以上のことになると
問題外ですわ。

成長したローリーは、家柄もよく財産もあり、見た目もよい青年となっていました。


幸せになれるかどうか?という明快な基準


母親なら、ローリーを「問題外」という娘に対し、ここは「もったいない!」と言いそうです。しかしマーチ夫人は「自由を欲しがりすぎる」者どうしは結婚に適さない、と判断を下していました。

適齢期の娘が結婚できるかより「娘が幸せになれるかどうか」―それを考えているマーチ夫人は、やみくもに結婚を勧めたりはしません。

ジョーはさらにこう言いました。

…深入りしないうちに
私はどこか遠くへ
行っちまうほうが
いいと思います。


それがいいでしょう。
うまく運んだらお出かけなさい


エイミーもそうですが、マーチ家の女性たちは、ここぞというときの行動力がすごい。

こうしてジョーはニューヨークでの滞在先も決め、準備を整えて出発の日を迎えました。

小)Lady Seated at a Table Dancing Figures 1775 or later メト美
ジョーはこの時点ではまだ、作家になることで頭がいっぱいです。(メトロポリタン美術館蔵)

それでもあきらめきれないローリーは、ジョーにこう言いました。

何の役にもたちやしないよ、ジョー。
僕はいつだって
君から目を離さないからね。

気をつけて行動したまえ、
さもなきゃ
出かけて行って連れもどすよ。


はたしてジョーのニューヨーク滞在では、どのようなことが起こるのでしょうか。

View of New York from Brooklyn Heights,1849 palmer メト美
1849年のニューヨーク風景。まだ帆船も見られます。(メトロポリタン美術館蔵)

※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。



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エイミーの結婚相手のネタバレあります。

どこまでも情熱的なエイミーの手紙を読んで

ヨーロッパ周遊中の妹エイミーが「婚約した」という知らせが、アメリカの家族に届きました。母親も姉のジョーも大喜びです。

エイミーの手紙には、「ふたりの人間がお互いに愛し、お互いのために生きるとき、この世はなんと天国のようなのだろう」という言葉が記されていました。

姉のジョーは、愛の力で変わった妹に、こう驚嘆しています。

これがあの
冷淡で控え目で
平凡だったエイミー!


礼儀正しく如才なく振るまえて、自分に自信もあったエイミー。でも個性的で奔放な姉から見れば、妹はこんな感じ ― 世間従順で、常識的に振るまうだけの、ツマラないタイプ。

そんなエイミーから届いた情熱的な手紙を、ジョーはまるで「美しい物語」を読むようだと感じます。


同じ姉妹なのに?というジョーの苛立ち

それからジョーはひとり二階にあがります。「また元の思いが頭をもたげ」てきたのでした。

…同じ姉妹でありながら、
どうしてひとりは
なんでもほしいものが得られ、

ひとりは得られないのかという、
悲しくも根気のよい疑いであった。


平凡な妹が、ヨーロッパ行きの切符を手にして(本当は自分が行くはずだった!)そして夢がついえた後も、申し分のない結婚相手と幸福にひたっている現実 ― しかもローリーは、かつて自分に熱烈にプロポーズしていた…やはり心中穏やかでない姉のジョー。

自分の人生に満足をしていないと、なかなか他人の幸福を喜ぶことはできません。

two young ladies in a garde メト美
同じ姉妹なのにという複雑な思いはは晴れるのでしょうか?(ニューヨーク公共図書館蔵)

ただジョーは、むやみに妹の幸運をうらやまず、冷静に分析をしています。

それは真実なものではない、
それは彼女も知っていた。

だからそのような気持ちを
払いのけようとしたが、…


ジョーは日常の中に「寂しさ」を見出したのです。ジョーは、エイミーの手紙の言葉に触発されて、こう感じ始めています。

神さまがふたりを
いっしょに
いさせて下さるあいだ、

心をうち込んで愛し、
すがりつくことが
できるようなひとを求める、

飢えんばかりのあこがれを
彼女に目ざめさせたのである。


一人の妹ベスの死によって、穏やかな日々の尊さに気がついたジョー。もう一人の妹の幸福に刺激を受けて、誰かを愛したいという欲求に目覚めます。

かつて四人姉妹がいきいきと暮らしていた家に、ジョーは取り残されました。姉メグは結婚し、妹は亡くなり、また末の妹はヨーロッパにいて婚約をしました。

黄金の子ども時代は過ぎ去って ― 遅ればせながら、ジョーも新しい家族をつくりたいと感じ始めたようです。

※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。




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エイミーの結婚相手のネタバレあります

婚約したエイミーの喜びあふれる手紙

婚約したことを母親に伝えるエイミーの手紙は、至福の感情を伝えるものでした。

Writing Gari Melchers  circa 1905-1909
エイミーはアメリカにいる母親に宛てて自分の幸福を綴ります。(ロサンゼルス・カウンティ美術館美術館蔵)

私はあのひとが
こんなにいいひとで、
心がひろく、
やさしいということを
初めて知りました。

子ども時代は、姉たちの方と仲が良く、末っ子エイミーには兄的存在だったローリー。それを今エイミーは、新しい姿で見出しました。

「あのひとは私に自分の心をよませてくれます。」エイミーは手紙に綴ります。

そうすると、どんなに
気高い感情と希望と目的で

あのひとの心が
いっぱいなのかと
いうことがわかって、

それが私のものなのだと思うと、
とても誇らしくなってしまいます。


ここには、エイミーからお説教されていた、頼りない男性の影はみじんもありません。女性から尊敬のまなざしを向けられて、ローリーは男性として自信と責任感をもったようです。

エイミーの「全身、全霊、全力をあげて彼を愛している」という熱い言葉はまだ続きます。

ああお母さま、
ふたりの人間が
お互いに愛し、
お互いのために
生きるとき、

この世はなんと
天国のようなのだろう
ということを、
私は初めて知りました。


本当の恋愛感情とは…

「画家になる」という野心を燃やしてヨーロッパに渡ったエイミー。やがてその野心は「貴婦人になる」というものに変わりました。冷静なエイミーは、そのリアリストぶりで貴婦人になる夢に近づきます。

しかし相手に向けるその愛は「相手が私を愛してくれて好きにさせてくれるなら、私の方でもそのうちに愛せると思う」という、冷静すぎるほどのものでした。

自分の望む人生を切り拓くためには、ある程度の計算や見通しが必要でしょう。しかしただ「何かを得るため」の引き換えとしての結婚では、愛情がもたらす幸福感は味わえないかもしれません。

真の愛情は、エイミーが手紙に書いたように「お互いのために生きよう」という利他的な関係によってもたらされます。その充足感は、エイミーに「この世はなんと天国のようなのだろう」とまで言わせるものでした。

自分の夢をかなえるためヨーロッパに旅立ったエイミー。それはまた大人になるための旅でもありました。

ここでエイミーの物語は、ひとつのかたちを結んで終わります。

そしてここからは、妹の心弾みを受けて変わり始めた、姉ジョーの物語が始まったようです。

in the meadow ルノワール メト美
二人の姉妹はともに人生の新しいステージに入ろうとしています。(メトロポリタン美術館蔵)

※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。




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エイミーの結婚相手のネタバレあります。

愛されたいという気持ちが強くなるジョー

エイミーの婚約がうれしい母マーチ夫人ですが、もうひとりの未婚の娘の気持ちを思いやっています。かつて、ローリーはジョーに熱烈にプロポーズをしていました。

その彼が、妹のエイミーと結婚する … 姉のジョーは平気なのでしょうか。

母親の問いかけにジョーはこう答えます。

まあお母さま、
お母さまは私が
それほどばかで、
わがまま者だと
思っていらっしゃるんですか。

ジョーに後悔はありません。

ローリーの恋が、
最上のものとは
いえないにしても、

あれほど新鮮だったときに
それを断っておいて、
今そんなことを思うなんて。


ジョーのしっかりした返答に、母はそれでもまだ心配をしています。

ジョーや、あのときは
あなたがしんから
そう思っていたことは
知っていました。

でもあとになってから
こう思ったんです、

もしもローリーが帰ってきて、
もう一度あなたに頼んだら、

あなたはおそらく
前とは違った返事を
したいような気が
するんじゃないかってね。

あなたがとても寂しそうに見えるから、とマーチ夫人は悲しんでいます。作家になる夢もかなわず、25歳となる娘は大丈夫だろうかという、母親ならではの不安です。

小)女流作家?
仕事の夢を追うだけでジョーは満たされるのでしょうか?

ジョーは、そんな母に対して、ローリーが妹を選んでくれてよかったと応えます。

たくさんの出会いから、生涯のパートナーをただ一人を選ぶとき、人は誰しも「この人に決めていいんだろうか?」と迷います。

「もっといい人が…」と思うあまりに決められなかったり、ふさわしい人を断ってあとから後悔したりと、結婚までは試行錯誤の連続です。

 ジョーは、ローリーのプロポーズを断ったことは後悔していません。しかし心境の変化が起きたことは認めています。「作家になる夢」以外は何もいらない!と気負っていたジョーは、今は素直にこう思うようになりました。

あのひとが
いなくなったころに比べると、

愛されたいという気持ちが
つよくなっているからなんです。

それをマーチ夫人はこう評価しています。

それで安心しました、ジョー、
それはあなたが
進歩したしるしですよ。

ジョーの求める気持ち
妹の結婚で、姉の気もちも変化し始めました。

人から愛されたいと思うことは「進歩したこと」、決して受け身でもないと母親は喜んでいます。


家族以外の愛情に目覚めるということは?

「あなたを愛してくれるひとはたくさんいますよ」とマーチ夫人は娘に伝えます。

だから今のうちは
お父さまとお母さまと、
きょうだいたちと、
お友だちと
赤ちゃんたち
[姉メグの子どもたち]
満足していらっしゃい。


たとえパートナーが現れなくても、愛情をそそいでくれた人、自分が愛情をそそぐ相手を見失わず、不平不満をためないことが肝心です。

マーチ夫人は娘にこう予言しました。

そのうちに
いちばんあなたを
愛してくださる方が現れて、
ごほうびをくださるでしょうからね。


ジョーはこれに対して、愛に対する許容量が広がったことを一所懸命に伝えます。

私は、ひとの心って
そんなにいろんな愛情を
受け入れられるものじゃないと
思うんですけど―

私のはとても弾力があって、
今いっぱいになっているような
気がしないんですの。


「いっぱいになっていない」と言うジョーは、寂しさを感じているのですね。

今までは私、
家の人たちだけで
ほんとに満足していましたのに。

どうしてだかわかりませんわ。

家族以外の人の愛情を求めだしたジョー。それは結婚する気もちの準備が整ったということでした。

個性的な彼女の結婚相手には、どのような男性がふさわしいのでしょうか。

※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。




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エイミーの結婚相手のネタバレあります。

娘から婚約の知らせを受け取るマーチ夫人


アメリカで待つ家族のもとに、エイミーから「婚約」を知らせる手紙が届きました。マーチ夫人にとっては嬉しい知らせですが、母親としては、それを見通していたようです。

マーチ夫人は、もう一人の娘ジョーに言います。

ええ、エイミーが
フレッドをお断りしたと
いってきたときから、

私はこうなればいいと
思っていました。


すでにエイミーの相手は、ローリーになると感じていたのです。

あのときエイミーが、
あなたのいう
「欲得ずくの精神」
以上のものを感じたのは
たしかなようでした。

それはあの子の手紙の
はしばしに見えていて、

最後は愛とローリーが
勝利を得るだろうと
思っていました。


ヨーロッパ旅行で一緒のキャロル伯母さんは、エイミーの傍にいながら全く気がついていませんでした。遠く離れていても、母親が娘を見る眼の確かさに驚きます。
 
ジョーもこれには感嘆したようです。

まあ、なんて敏感で
いらっしゃるんでしょう、
お母さま。

そしてよく
だまっていらしたのね。
私には一言も
おっしゃいませんでしたわ


多少恨みがましいジョーに対してマーチ夫人はこう応えます。

母親というものは
目は鋭い代わり、
口は固くしておかなくては
ならないものなのよ。

世話の焼ける
娘たちがいればね。

貴婦人になる!と意気込むエイミーも、作家になる!と自立したがるジョーも、マーチ夫人から見れば、ただ「世話の焼ける娘たち」…ひたすらその幸せを願っています。

Madame Georges Charpentier and Her Children 1878 Renoir メト
母親にとって娘はどんなに成長しても幼い子どものまま…(メトロポリタン美術館蔵)


キャロル伯母さんも、エイミーの恋に気づいてからは、黙って良い方向に行くように見守っていました。母親であるマーチ夫人も、現在進行形の愛に口を挟んだりはしません。

経験を積んだ大人の役割は、若者たちを信頼し、その意志を尊重すること。流れから外れそうになる時だけ、アドヴァイスをしています。


ジョーの心情を思いやるマーチ夫人

マーチ夫人は、ジョーの性格も心得ていました。

エイミーの結婚相手を予感しながら、自分には教えてくれなかったと少々不満げなジョーに対しては、こう応えています。

…言えば、あなたのことだから、
はっきりきまりもしないうちに

手紙を書いたり、
お祝いを述べたり
やりかねないと
思ったからもあるの。

直情径行の娘の性格をよくわかっていますね。

ジョーは、もう昔の私ではないから大丈夫よ!と応えます。

ほんとに
そうでしたね、ジョー。

あなたには話しても
よかったのにね。

母親はしかしなお、娘の気もちを思いやります。

ただね、お母さまは
あなたのテディ
[ローリーの愛称]

他のひとを愛した
なんてきいたら、

やっぱりいや
なんじゃないかと
思ったんですよ。

かつてあれほどジョーに恋焦がれていたローリーが結婚する、しかもその相手が、自分の妹 …  ジョーは今その事実を、どのように受け止めているのでしょうか。

※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。


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このままでは「もったいない人」のチカラになります

若草物語ブログ第一話はこちらから







 



 

エイミーの結婚相手のネタバレあります。

結婚前の恋人たちの甘美な時間

お互いが、かけがえのない存在だと悟った二人の若者。やがては結婚することを感じながら、彼らはスイスのヴヴェーという美しい土地で、甘美な「恋人の時間」を過ごしています。

マーチ家の三女ベスの死は、エイミーとローリーに深い絆をもたらしました。

新しい悲しみは
あったにしても、
それはほんとうに
幸福な一時だった。

あまりの幸福さに、
ローリーは言葉などで
それをかき乱すことが
たえられないほどだった。

ローリーは、かつてエイミーの姉ジョーに恋して、失恋していました。その痛みからあまりに早く立ち直ったことに、若干の後ろめたさを感じています。彼はこう考えました。

ジョーの妹は
ほとんどジョー自身と
同じなのだと、

そして妹なる
エイミー以外の女性ならば、

こうも早く、
こうもしっくりと
愛することは
できなかったろうと、
かたく信じていたのである。


プロポーズは彼自身でも思いがけなく


ローリーには、自身の初恋の性急さが、ジョーとの破局をもたらした苦い経験があります。

慎重さを身につけた彼は、エイミーへのプロポーズはあえて急ぎません。その時がきたら、「古城の庭園で月の光を浴びながら、すこぶる上品にかつ礼儀正しく」行おうと思っていました。

その顛末については、ここで記さず、ぜひ小説をお読みいただければと思います。

ただ運命のその日を、二人はこんな風に過ごしていました。

ふたりはその日の午前中、
陰鬱なサン・ジャンゴルフから
明るいモントルーへと
舟を浮かべていた。


エイミーとローリーの周囲には、スイスの雄大な風景が広がっていました。

一方にはサヴォア・アルプス、
他の側にはモン・サン・ベルナールと
ダン・デュ・ミディがそびえ、

谷間には美しいヴヴェーの町が、
そしてはるかな丘の上には
ローザンヌが横たわっている。


レマン湖の風景は今でも変わらず美しく、たくさんの観光客を惹きつけています。

スイス湖畔のイメージ
風光明媚なスイス湖畔のイメージ

ふたりはシヨンのそばを
すべってゆくとき
はボニヴァールを語り、

クラランスを仰ぎみては
そこで「エロイーズ」を書いた
といわれるルソーを語った。

二人は文学の名作について語り合っているようです。シヨンとはシヨン城のことで、詩人バイロンはここにかつて幽閉された、宗教改革者ボニヴァールを謳いました。

1816年のことですから『続若草物語』が刊行される1869年当時からは、まだ半世紀と少し前です。

そしてエロイーズは、フランスの思想家ルソーが書いた悲恋の物語です。

Castle of Chillon.1828 ny図書館
シヨン城を描いた19世紀の銅版画。今もスイスでこの城を訪れることができます。(ニューヨーク公共図書館蔵)


ふたりともそれらを
読んだことはなかったのだけれど、
それらは恋愛の物語だ
ということを知っていた。

そしてひそかに、
そのお話は自分たちのに比べて
半分もおもしろいのかしら
などと考えていた。


夢中で愛し合う恋人たちにとって、自分たちの物語が全てです。
 
スイスの雄大な風景という申し分のない舞台設定のなか、でもローリーのプロポーズは、その場の流れで、あまり劇的でもなく、あっけなく行われてしまいました。

思ったようにいかなくても、それでも二人の至福の時間は続きます。

どんなことも許せてしまうのが、本当の愛情の不思議さですね。

※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。



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