婚活するヒロインたち 結婚に役立つ名作案内 「若草物語」「細雪」

名作文学のヒロインたちから現代に役立つ結婚の知恵を学びます。―いろいろあるけれど、最後には笑おう ― 次はあなたがヒロインです。

2020年10月

瀬越氏でご不満ですか?

四十一歳・初婚でも、瀬越氏は特に訳ありではなさそうです。

高級美容院経営者・井谷のセッティングで、お見合いの日どりも決まっていきます。

井谷は「お宅さんは旧家でおありになるし、大阪では『蒔岡』と云えば一時は聞えていらしったに違いないけれども」と前置きしてから、次女の幸子にこう忠告しています。

こう申しては
失礼であるが、

いつまでも
そう云う昔のことを
考えておいでになっては、

結局お嬢様が
縁遠くおなりに
なるばかりだから、


没落した旧家が体面にこだわることを諭して、こう言います。

大概なところで
御辛抱なすったら
いかがであろうか。

この仲人役の井谷のように、辛口のアドヴァイスをしてくれる存在は貴重でしょう。

とろろこんぶ
独り立ちさせないことは、雪子にとってどうなのでしょう?photo by とろろこんぶ


魅力的なキャラクター・井谷という職業婦人

この井谷という人物、姉妹たちが「行きつけの美容院の女主人」です。

長らく中風症で
臥たきりの夫を
扶養しつつ
美容院を経営して、

かたわら一人の弟を
医学博士にまでさせ、

今年の春には
娘を目白に入学させた…


というだけあって小説『細雪』の中では、なかなかの存在感。

美容院は場所柄、各家庭の情報が飛び交いますから、世話好きの井谷は仲人役を買って出て、雪子のことも気にかけています。

職業婦人だけあって、有能で、テキパキと事を進める人物のようです。

何でも
心にあることを
剥き出しに
云ってのける
のであるが、

その云い方が
アクドクなく、
必要に迫られて
真実を語るに
過ぎないので、

わりに相手に
悪感を与えることが
ないのであった。


その井谷から「旧家のプライドで、雪子さんを縁遠くしては…」と注意されている蒔岡家。

お嬢さま育ちの姉妹たちの動きの遅さを見越して、縁談のイニシアティブをとっていくようです。

※小説の引用は『細雪(上)』新潮文庫からです。



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年収がまだ不満そうな姉妹に対して

雪子の縁談を持ってきたのは、井谷という女性。姉妹行きつけの高級美容院の女性経営者です。なるほど、縁談の情報が飛び交いそうな場所ですね。

その井谷さん、お相手の瀬越氏について、こうとりなしています。

現在では
月給は少いけれども、
まだ四十一だから
昇給の望みも
ないことはないし、


今だってそれなりの月収だと思うのですが(^^;

それに
日本の会社と違って
わりに時間の
余裕があるので、

夜学の受持時間の方を
もっと殖やして

四百円以上の
月収にすることは
容易だと云っているから…

この当時から、外資系企業の方が「時間の余裕がある」と言われていたんですね。

結婚のためにダブルワークをがんばると言う瀬越氏。なかなかいい人そうな感じですが…

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副業でフランス語学校の講師をしています。

お相手の人柄も独自に調べます

雪子の母親代わりである姉の幸子は、相手のことを少し調べたりしています。

幸子は内々
MB化学工業会社に
手蔓を求めて、

その、瀬越と云う人の
評判などを
問い合せてみ、
外へ手を廻して
調べてみたが、


この時代、結婚候補を、家族がしっかり調べるのは普通のこと。また普段からきちんとしていないと、どこでどんな風に言われているか、怖いですね (^^;

どの方面で聞いても
人格について
悪く云う人は
一人もないので、

まあこの辺が
良い縁かも知れない、

妙子には「なんで今まで独身?」とまで言われてしまった瀬越氏ですが、41歳初婚でも、現時点では特に問題なさそうです。

「まあこの辺が…」と言えるあたり、ちょっと上から目線な蒔岡(まきおか)家ですね(^^;

※小説の引用は『細雪(上)』新潮文庫からです。



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瀬越さんはどんな人?

末っ子の妙子から「いかにもサラリーマンタイプ」と言われてしまった見合い相手の瀬越氏。MB化学工業会社にお勤めです。

どんな感じの人なのでしょう? 幸子はこう説明します。

ふん、
大阪外語の仏語科出て、
巴里にも
ちょっとぐらい
行てはったこと
あるねん。


当時、洋行しているのなら、それなりのエリートサラリーマンですね。

会社の外に
夜学校の
仏蘭西語の教師
してはって、

その月給が
百円ぐらいあって、
両方で三百五十円は
あるのやて

意外なのはこの当時、すでに会社で「副業」を認めているようです。

Morihiさん
ダブルワークでフランス語講師の瀬越氏です。

旧家にとって気になる、お相手の年収は?


幸子の説明は続きます。

財産云うては
別にないねん。

田舎に母親が
一人あって、

その人が住んではる
昔の家屋敷と、
自分が住んではる
六甲の家と
土地があるだけ。

六甲のんは
年賦で買うた
小さな文化住宅やそうな。
まあ知れたもんやわ


住宅ローンの済んでいない家に一人暮らしのようです。

それに対し、末っ子の妹はチャッカリしたことを言っています。

そんでも
家賃助かるよってに、
四百円以上の
暮し出来るわな

身内の会話だけに、かなりシビアでリアル感がありますね(^^;

soraraさん
エリートサラリーマンと結婚して優雅に専業主婦? photo by sorara


瀬越さんの財産は、本収入と副業の収入、そして持ち家ということになります。

当時の月給100円が、今の20万円ほどとすると※1、月400円以上の暮らしは80万円ほどでしょうか。

大卒というだけで、かなりエリートだった戦前の日本。海外勤務経験ありのサラリーマンで、年収ほぼ1000万なら、お相手としては十分だと思うのですが…

あまり乗り気でない姉妹に、このお見合いの口利きをした人は、ちょっと釘をさしているようで…それはまた次回以降に書いてみたいと思います。

※1『「月給百円」のサラリーマン―戦前日本の「平和」な生活』 岩瀬彰著 講談社現代新書 2006年
※小説の引用は『細雪(上)』新潮文庫からです。



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お相手は、MB化学工業会社のサラリーマン41歳

長編小説『細雪』は、雪子に縁談が一つ持ち込まれたところから、始まります。

30歳になった雪子のお相手は、MB化学工業会社にお勤めの「瀬越」氏、11歳年上です。

さっそく見合い写真を見ながら。次女の幸子(既婚)と、末っ子の妙子(未婚)が棚卸しを始めました。妙子は、相手が40代で「初婚」であることに不審そうです。

妙子「なんで四十一まで結婚しやはれへなんだやろ」

お相手の瀬越氏だって、同じような感想だと思うのですが(^^;

幸子「器量好みでおくれた、云うてはるねん」

末っ子の妙子は、姉妹の中で一番マセています。

妙子「それ、あやしいなあ、よう調べてみんことには」
幸子「先方はえらい乗り気やねん」

第3話柳に風
柳に風といった風情の雪子です。

いつものごとく当事者の雪子は無関心

肝心の三女の雪子は、写真を見せられても「ああこの人」といった感じで、特に意思表示もありません。姉の幸子はちょっとあきらめ気味。もっぱら妙子に「どう思う?」と意見を聞いています。

妙子はこう言います。

これやったらまあ平凡や。
―いや、いくらかええ男の方かしらん。
―けどどう見てもサラリーマンタイプやなあ

姉はそれを受けて…

そうかて、それに違いないねんもん

なんだかあまり盛り上がっていない会話ですね。
当事者の雪子は、このお見合いを、はたして受けてみるのでしょうか。

※小説の引用は『細雪(上)』新潮文庫からです。

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三女・雪子さんの身辺事情

名作文学のヒロインたちの行動から、婚活の知恵を学ぶ第二弾は『若草物語』に続き、日本の四人姉妹『細雪』です。

ベスのように極端に内気な雪子さん、美人で若見えしますが、未だ独身。

幸子の直ぐ下の
妹の雪子が、
いつの間にか
婚期を逸して

もう三十歳にも
なっている
ことについては、

深い訳がありそうに
疑う人もある
のだけれども、

実際は
これと云うほどの
理由はない。

今でこそ、30歳はまだまだ若いうちです。
でも昭和初期の日本では、当然結婚して子供がいても、おかしくない年齢。

「これと云うほどの理由はない」としながら、雪子が縁遠くなった原因はどうやら、旧家・蒔岡(まきおか)家のプライドにあるようです。

要するに
御大家であった
昔の格式に
囚われていて、

その家名にふさわしい
婚家先を望む結果、


なんだかいやな予感がしますね(^^;

初めのうちは
降る程あった縁談を、

どれも物足りない
ような気がして
断り断りしたものだから、

この対応、雪子が若いうちはよかったのでしょうが…

次第に世間が
愛憎をつかして
話を持って行く者も
なくなり、

その間に家運が
一層衰えて行く
と云う状態になった。

出し惜しみしているうちに、持っているリソースまで失ってしまうパターンですね。

細雪02HiCさん photo by HiC

箱入り娘過ぎてしまって

蒔岡家のプライドは、かつて船場(せんば)の豪商だったというところから来ています、「船場」とは、大阪府大阪市中央区の地域名ということで、大阪の大商人が経済活動をしていました。

没落したといえども豪商の末裔、蒔岡家の姉妹は、贅沢で華やかな暮らしを続けています。

その環境で育った雪子は、衣食住に関して、とても洗練された感覚の持ち主。

極端に内気なのに、目は肥えていて生活スタイルにこだわりがあるという…なんだかいかにも、結婚するには難しそうなキャラクターになっています。

この雪子、姉夫婦の家に同居して、パラサイトシングルを謳歌している状態。そして姉である幸子の目下の悩みは、なかなか嫁げない妹、雪子と妙子の「婚活」でした。

(ちなみに末っ子・妙子も姉夫婦の家に同居。当時のお嬢さまは働かなくても咎められません。姉妹三人、なんだか楽しそうに暮らしています。)

30代に突入した雪子には、これからどんな婚活ドラマが待ち受けているのでしょうか。

※小説の引用は『細雪(上)』新潮文庫からです。



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