婚活するヒロインたち 結婚に役立つ名作案内 「若草物語」「細雪」

名作文学のヒロインたちから現代に役立つ結婚の知恵を学びます。―いろいろあるけれど、最後には笑おう ― 次はあなたがヒロインです。

カテゴリ:末っ子エイミー > 若草物語(スイス)

エイミーの結婚相手のネタバレあります

悲しい知らせを受け取ったエイミーは…


玉の輿であったイギリス貴族からのプロポーズを断り、今は風光明媚な、スイスのヴヴェーに滞在するエイミー。

そんな彼女にアメリカの実家から、悲しい知らせが届きます。それは三番目の姉ベスの死でした。

エイミーは
この悲しみによく耐えた。

帰国しても姉には、会えなくなったのでした。

もうベスに
さようならを言うのには
間に合わないのだから、
旅行を切り上げる必要はない、

もっと滞在して、
遠く離れていることで
悲しみを和らげるほうが
いいだろうという、
家族のすすめに
従ったのである。

今の感覚で言えば、身内が危篤なら帰国するとも思いますが、このお話は19世紀、手紙のやりとりにも移動にも、とても時間がかかる時代です。

またヨーロッパ長期滞在も、一生に一度のチャンスとなれば、家族の心遣いもわかります。

しかしエイミーの気は晴れませんでした。彼女はホテルの庭園で物思いに沈んでいます。

その日も、彼女は
ここに腰を下ろして、
頬杖をつき、

ホームシックに
おそわれながら、
悲しげな目をして
ベスを思い、

ローリーはどうして
来てくれないのかしら
と考えていた。


Count Burckhardt 1862 Whistler(メト)
華やかな社交から一転、宗教的な想いにとらわれるエイミー。(メトロポリタン美術館蔵)


ローリーの訪れがエイミーにもたらしたもの

そんなエイミーの期待は裏切られませんでした。

ヴヴェーに着いたローリーは、彼女をホテルの庭園に探しあてます。ローリーの姿に気がついたエイミーは…

エイミーは
何もかもほうり出して
彼のそばへ駆けより、

正真正銘の
愛情とあこがれを
こめた調子で叫んだ―

まあ、ローリー!
きっと来てくださると
思ってましたわ!

ここに作者オルコットの言葉がはさまれます。

私はこれで
すべてが言いつくされ、
解決されたのだと思う。


人は将来の設計や、そのための計算や駆け引きや不確かな期待、そんな毎日に埋没しがちです。

しかしそれは「生きていることが当たり前」の幸せな前提です。

身近な人の「死」は、そんな時に生きるとは?」という、根源的な問いを突き付けます。

無邪気な夢を追いかけていたエイミーとローリー。二人は、ベスの死によって「何がいちばん大切なことなのか」を、素直に感じ取りました。

…エイミーは
こんなにまで自分を慰め、
ささえてくれるものは、
ローリーの他には
ないことを感じたし、

生きていくために本当に必要な人、エイミーにはそれがわかりました。

ローリーのほうでもまた、
ジョーの代わりとなって
自分を幸福にしてくれる
ことのできる女性は、

世界中にただひとりだと
きめてしまったからである。

眠れる森の美女(
眠れる森の美女のように目ざめの時が訪れます…

こうして二人は結ばれました。

エイミーはローリーの姿を目にしたとき「何もかもほうり出して」駆け寄りました。とても意味深長な言葉だと思います。打算や私欲のない愛情には、こういう強さがあるのだと思います。



※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。

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エイミーの結婚相手のネタバレあります。

ベスの死がもたらした本当の愛

ヨーロッパに滞在中のマーチ家の末っ子エイミー。若く魅力的な女性として楽しい日々を送っていましたが、そこに姉ベスの死の知らせが届きました。

スイスの保養地ヴヴェーで悲嘆にくれる彼女をなぐさめようと、幼なじみのローリーが駆けつけます。

そうしてホテルの古い庭園で再び会った瞬間、ローリーとエイミーは互いに「この人しかいない!」と悟ったのでした。悲しみによっていつもの冷静なエイミーは影をひそめ、熱い気もちがあらわれます。

エイミーの話しぶりと様子とが
まるで胸いっぱいな、
ホームシックの子供
みたいだったので、

ローリーははにかみなど
すぐに忘れてしまって、…

素直で純粋な感情表現に、人は応えやすいものです。

彼女のほしくて
たまらなかったもの―

昔どおりの愛撫だの、
今の彼女に必要な
愉快な話だのを
してやったのである。

エイミーは「孤独と悲嘆の重荷を、城の庭へおいてきたような」気持ちをなっていました。

ひとりで抱え込む悲しみを、癒すことのできる誰か―そういった存在が、人生で最もパワフルなつながりをもたらします。キャロル伯母さんは、その目撃者となりました。

キャロル夫人が
打って変わった
この少女の顔を見た瞬間、

彼女の頭には
これまでなかった考えが
ひらめき、心のうちに叫んだ。

これでわかった―
この娘はずっと
ローレンスの坊っちゃんを
思っていたのだったんだ―


さすが年長者の見識で伯母さんは賢くふるまいます。

みごとな分別さをはたらかして、
善良な伯母さんは
何事にも口を出さなかった。

またわかったような
そぶりさえも示さず、

ローリーには
おあいそよく滞在をすすめ、

エイミーには
彼のお相手を
してくれるようにと頼んだ。


しっかりした大人が見守ることで、二人の恋は成長していきました。


スイスの大自然が恋人たちを祝福する

 
こうしてヴヴェーでの恋人たちの時間が始まりました。
 
レマン湖の湖畔、風光明媚な土地もまた、彼らに生きる力を授けます。

ふたりは永遠の相(すがた)をした
丘の間を歩きながら、

人生と義務というもの
に対する見解を、

これまでよりもはっきりと
つかんだように思った。

一人から二人になることで、これからのビジョンが見えたのです。

新鮮な風は
絶望的な疑いや、
とりとめのない妄想、
気まぐれな迷いなどを
吹き払ってくれたし、

暖かい春の日光は、
大きな抱負とやさしい希望と
幸福な想いとをもたらした。

レマン湖
レマン湖の風景

愛によって「相手になにかしたい」と考えるようになるとき、そこに思いやりの気持ちが生まれます。そこから、これまで自分たちを支えてきてくれた周囲への感謝の気持ちがあらわれます。

エイミーとローリー、それぞれに自分の夢を追ってきた若者たちは、満たされることで「自分たち」に何ができるかということを、自然に考えられるようになったのです。

湖水は過ぎた日の苦悩を
洗い去ってくれるかのようであり、

昔ながらの雄大な山々は
やさしくふたりを
見下ろしながら、

「小さな子供たちよ、
いつまでも愛し合いなさい」
と言っているようであった。


スイスの変わらぬ大自然の中に、いつの時代も変わらない恋人たちの姿がありました。

※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。


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エイミーの結婚相手のネタバレあります。

結婚前の恋人たちの甘美な時間

お互いが、かけがえのない存在だと悟った二人の若者。やがては結婚することを感じながら、彼らはスイスのヴヴェーという美しい土地で、甘美な「恋人の時間」を過ごしています。

マーチ家の三女ベスの死は、エイミーとローリーに深い絆をもたらしました。

新しい悲しみは
あったにしても、
それはほんとうに
幸福な一時だった。

あまりの幸福さに、
ローリーは言葉などで
それをかき乱すことが
たえられないほどだった。

ローリーは、かつてエイミーの姉ジョーに恋して、失恋していました。その痛みからあまりに早く立ち直ったことに、若干の後ろめたさを感じています。彼はこう考えました。

ジョーの妹は
ほとんどジョー自身と
同じなのだと、

そして妹なる
エイミー以外の女性ならば、

こうも早く、
こうもしっくりと
愛することは
できなかったろうと、
かたく信じていたのである。


プロポーズは彼自身でも思いがけなく


ローリーには、自身の初恋の性急さが、ジョーとの破局をもたらした苦い経験があります。

慎重さを身につけた彼は、エイミーへのプロポーズはあえて急ぎません。その時がきたら、「古城の庭園で月の光を浴びながら、すこぶる上品にかつ礼儀正しく」行おうと思っていました。

その顛末については、ここで記さず、ぜひ小説をお読みいただければと思います。

ただ運命のその日を、二人はこんな風に過ごしていました。

ふたりはその日の午前中、
陰鬱なサン・ジャンゴルフから
明るいモントルーへと
舟を浮かべていた。


エイミーとローリーの周囲には、スイスの雄大な風景が広がっていました。

一方にはサヴォア・アルプス、
他の側にはモン・サン・ベルナールと
ダン・デュ・ミディがそびえ、

谷間には美しいヴヴェーの町が、
そしてはるかな丘の上には
ローザンヌが横たわっている。


レマン湖の風景は今でも変わらず美しく、たくさんの観光客を惹きつけています。

スイス湖畔のイメージ
風光明媚なスイス湖畔のイメージ

ふたりはシヨンのそばを
すべってゆくとき
はボニヴァールを語り、

クラランスを仰ぎみては
そこで「エロイーズ」を書いた
といわれるルソーを語った。

二人は文学の名作について語り合っているようです。シヨンとはシヨン城のことで、詩人バイロンはここにかつて幽閉された、宗教改革者ボニヴァールを謳いました。

1816年のことですから『続若草物語』が刊行される1869年当時からは、まだ半世紀と少し前です。

そしてエロイーズは、フランスの思想家ルソーが書いた悲恋の物語です。

Castle of Chillon.1828 ny図書館
シヨン城を描いた19世紀の銅版画。今もスイスでこの城を訪れることができます。(ニューヨーク公共図書館蔵)


ふたりともそれらを
読んだことはなかったのだけれど、
それらは恋愛の物語だ
ということを知っていた。

そしてひそかに、
そのお話は自分たちのに比べて
半分もおもしろいのかしら
などと考えていた。


夢中で愛し合う恋人たちにとって、自分たちの物語が全てです。
 
スイスの雄大な風景という申し分のない舞台設定のなか、でもローリーのプロポーズは、その場の流れで、あまり劇的でもなく、あっけなく行われてしまいました。

思ったようにいかなくても、それでも二人の至福の時間は続きます。

どんなことも許せてしまうのが、本当の愛情の不思議さですね。

※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。



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エイミーの結婚相手のネタバレあります

婚約したエイミーの喜びあふれる手紙

婚約したことを母親に伝えるエイミーの手紙は、至福の感情を伝えるものでした。

Writing Gari Melchers  circa 1905-1909
エイミーはアメリカにいる母親に宛てて自分の幸福を綴ります。(ロサンゼルス・カウンティ美術館美術館蔵)

私はあのひとが
こんなにいいひとで、
心がひろく、
やさしいということを
初めて知りました。

子ども時代は、姉たちの方と仲が良く、末っ子エイミーには兄的存在だったローリー。それを今エイミーは、新しい姿で見出しました。

「あのひとは私に自分の心をよませてくれます。」エイミーは手紙に綴ります。

そうすると、どんなに
気高い感情と希望と目的で

あのひとの心が
いっぱいなのかと
いうことがわかって、

それが私のものなのだと思うと、
とても誇らしくなってしまいます。


ここには、エイミーからお説教されていた、頼りない男性の影はみじんもありません。女性から尊敬のまなざしを向けられて、ローリーは男性として自信と責任感をもったようです。

エイミーの「全身、全霊、全力をあげて彼を愛している」という熱い言葉はまだ続きます。

ああお母さま、
ふたりの人間が
お互いに愛し、
お互いのために
生きるとき、

この世はなんと
天国のようなのだろう
ということを、
私は初めて知りました。


本当の恋愛感情とは…

「画家になる」という野心を燃やしてヨーロッパに渡ったエイミー。やがてその野心は「貴婦人になる」というものに変わりました。冷静なエイミーは、そのリアリストぶりで貴婦人になる夢に近づきます。

しかし相手に向けるその愛は「相手が私を愛してくれて好きにさせてくれるなら、私の方でもそのうちに愛せると思う」という、冷静すぎるほどのものでした。

自分の望む人生を切り拓くためには、ある程度の計算や見通しが必要でしょう。しかしただ「何かを得るため」の引き換えとしての結婚では、愛情がもたらす幸福感は味わえないかもしれません。

真の愛情は、エイミーが手紙に書いたように「お互いのために生きよう」という利他的な関係によってもたらされます。その充足感は、エイミーに「この世はなんと天国のようなのだろう」とまで言わせるものでした。

自分の夢をかなえるためヨーロッパに旅立ったエイミー。それはまた大人になるための旅でもありました。

ここでエイミーの物語は、ひとつのかたちを結んで終わります。

そしてここからは、妹の心弾みを受けて変わり始めた、姉ジョーの物語が始まったようです。

in the meadow ルノワール メト美
二人の姉妹はともに人生の新しいステージに入ろうとしています。(メトロポリタン美術館蔵)

※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。




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