婚活するヒロインたち 結婚に役立つ名作案内 「若草物語」「細雪」

名作文学のヒロインたちから現代に役立つ結婚の知恵を学びます。―いろいろあるけれど、最後には笑おう ― 次はあなたがヒロインです。

カテゴリ:末っ子エイミー > 若草物語(パリ)

花の都パリを堪能するエイミー

ロンドンで過ごしたキャロル伯母さんの一行は、フランスへ渡ります。
 
エイミーはパリに到着し、馬車に乗っている皇帝一家を目撃します。ときの皇帝はナポレオン3世。皇帝の結婚が1853年で、皇太子誕生が1856年ですから、オルコットがヨーロッパを訪ねた1865年に、馬車に乗った皇帝一家を目撃しても、おかしくありません。
 
皇后ユージェニーは美貌で知られていましたが、エイミーからは「服装のセンスがあまり良くない」と言われてしまっています。

第二帝政期はパリもまた、ぜいたくな都市文化が花開き、繁栄を極めていた時代でした。

Winterhalter_Eugenie_1855
 ヴィルターハンターの描いたユージェニー皇后と侍女たちの姿。1855年当時の宮廷女性の贅沢な装いがうかがえます。

私たちのお室は
リヴォリ街に面しています。

バルコニーに腰を下ろして、
私たちは長い、にぎやかな
通りをながめます。

昼間の見物に疲れて、
もう外には出たくないようなとき、

ここでおしゃべりをしながら、
夕方を過ごすのも楽しいことです。


リヴォリのバルコニー
リヴォリ通りのバルコニーと題されたイラスト。エイミーもこんな感じでホテルでおしゃべり?(ニューヨーク公共図書館蔵)

現在のリヴォリ街は、もう往年の輝きはないようですが、ナポレオン3世時代は、最もお洒落でにぎやかな通りがありました。

『続若草物語』で語られるエイミーのヨーロッパ旅行の様子は、若い時代に、幸運にも未知の世界を旅した人間の、幸福感やワクワク感を余すところなく描いていて、読んでいてとても楽しい部分です。


『続若草物語』のベースとなった作者オルコットの海外旅行

以前にも書きましたが、オルコット自身、1865年からほぼ1年に渡って、ヨーロッパ周遊をしています。

この最初の海外旅行は、アンナ・ウェルド(ボストンの大きな会社の病身な娘)の付添いでした。気難しい病人の介護は骨が折れたようで、オルコットは滞在中に仕事を辞めてしまっています。
 
小説に描かれる大旅行は、1865年のこの作者自身の体験がベースとなっています。エイミーが語る弾むような体験は、仕事を辞めてから帰国するまでのオルコット自身の楽しい思い出なのでしょう。

オルコットは旅行中、ヴヴェーというスイスの街で、ポーランドの青年ラディスラス・ヴィシニェフスキに出会っています。後の『若草物語』のローリーのモデルだと言われています。

オルコットはヴヴェー滞在中の日記にこう記しています。

これまでの誕生日は
たいていいつも
うら寂しい思いをしたのに、
今度はそうではなかった。

特別なことが
起こったわけではないけれど、
幸せを感じた。

いつになく心が浮きうきして、
なにもかもが楽しかった。


年下のラディスラス青年に、オルコットはなにか時めくものを感じていたようです。

いまわたしは33歳だけれど、
かなり年齢を感じる。

ときは刻々と
すぎていくけれど、

若さを保てるものは
たくさんあるのだから、
心だけはいつまでも
若々しくしていたい。


オルコットは生涯独身でした。この青年との淡いロマンスを『続若草物語』に託して、結婚の夢をかなえたように感じます。

『若草物語』が書かれる2年ほど前のお話です。

※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。
※オルコットの日記の引用は、『ルイーザ・メイ・オールコットの日記 もうひとつの若草物語』ジョーエル・マイヤースン/ダニエル・シーリー編、マデレイン・B・スターン編集協力、宮木陽子訳 2008年 西村書店 からです。 



「あなたはジョーか?エイミーか?」若草物語ファンの十海ひかり主宰マリッジサロンはこちら↓
 






イギリス貴族の青年フレッド登場

エイミーは朝から晩まで観光し、花の都パリを満喫しています。

パレ・ロワイヤールは
すばらしいところです。

宝石、貴金属、その他
いろいろ美しいものが
あるのに買えないので
気が狂いそうです。
 
こうエイミーが述べた〈パレ・ロワイヤール〉とは、元王族の邸宅を、19世紀後半に商業施設として整備した場所。

高級品を扱う店や、カフェやレストランなどが軒を連ね、現在でも、パリの名所の一つです。いつの時代もこの場所は、あらゆる女性の心を惹きつけたようです。

パレロワイヤル
 エイミーが夢中になったパレ・ロワイヤールの正面。
 

エイミーは、かつてアメリカで姉妹を訪問した、イギリス貴族の兄弟に再会していました。彼らは幼なじみのローリーの友人です。
 
気の利く兄弟は、旅のエスコート役をかってでます。とりわけ長男のフレッドはフランス語が上手で、パリで過ごす相手としては、うってつけでした。

魅力的なエイミーの弱点は?

『続若草物語』では、エイミーの弱点をこう書いています。

富とか地位とか
流行の芸ごととか
優雅な態度とか
いったようなものが、
彼女にとっては
最も望ましいものであり、

そういうものを
もち合わせている
人たちと交際するのが
大好きだった。

フレッドは、パレ・ロワイヤールで、エイミーにプレゼントをしようとします。節度ある彼女は「もちろん断る」のですが、この青年の存在感が、だんだん増していることがわかります。
 
旅先でも人目を惹く魅力的なエイミーに、フレッドは気のある素振りをたくさん見せます。

「貴婦人」になりたい彼女にとって、爵位を持つ彼との結婚は夢をかなえる大チャンス。フレッドはまたすばらしい財産家でした。

ショッピング
お金持ちと結婚したらお買い物も心の赴くままに?

さて、いよいよエイミーに、運命の人が現れたのでしょうか? 

姉ジョーよりもずっと社交家ですが、その分「いつわりのものを真のものと思い誤り、尊敬すべからざるものを尊敬することもたびたびだった」とされるエイミー。

『続若草物語』は、観光案内的な描写からはなれて、こういう弱点をもったエイミーをめぐる、人間ドラマに移り始めます。

※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。


「あなたはジョーか?エイミーか?」若草物語ファンの十海ひかり主宰マリッジサロンはこちら↓
 





イギリス貴族の青年フレッドの富

 旅先で再会したイギリス貴族の青年フレッドは、いまやエイミーに夢中です。
  
エイミーも、まんざらではありません。 フレッドは自分の財産について、話しているようです。

りっぱな食器とか、
家代々の宝石類とか、

年とった召し使いたちとか、
田舎の領地の
写真などを
見せてもらいました。


財産でエイミーの気を引いているようです。

その領地には
広壮な荘園だの、

大きな館だの、
美しい庭園だの、

りっぱな馬などがあるのです。

狙い通り、エイミーはすっかり心奪われました。

ああ、ほんとに
私のほしいものばかりです。 

asper Francis Cropsey Warwick Castle England 1857 NGA
イギリスのお城のある風景。こんなところに住めるようになったら玉の輿?(ナショナル・ギャラリー蔵)

フレッドの好意を感じ取ったエイミーは、この状況を手紙でアメリカの母親に伝えます

そして「私の方から仕向けたわけではない」と、浮かれた行動はとっていないと言い訳しています。

私は他人が
私を好きになるのを
防ぐことはできません。

私の方から仕向ける
わけではないのですもの。

ジョーから「ちょっとしたことで他人を喜ばせることが、あんたのように気軽にできたらと思うのよ。」と羨ましがられたエイミー。その振る舞いはどんな人からも好感をもたれます。
 
自分の感情を抑えることができ、自分本位に好き嫌いをしない「愛想の良さ」が、異性を惹きつける魅力となっているようです。

ただこの時点でエイミー自身は、フレッドに惹かれているのではなく、どうやらフレッドの「富」に惹かれている様子


結婚相手に望むこと

なぜなら、母親に宛てた手紙には、こう記されてもいるからです。

あのひとさえ
私を愛してくれて、

私のしたいように
させてくれるのでしたら、

そのうちには
私のほうでも

じゅうぶん愛することが
できると思うのです。

したうようにさせてくれる
したいようにさせてくれるのでしたら…

さて、このメンタリティ「条件付きの愛」によって、エイミーは幸せになっていくのでしょうか?

娘盛りのエイミーの人生ドラマの幕開けです。
 
エイミーは母親に「あまりご心配なさらないでください」と書き送っています。 

私はいつも
『用心深いエイミー』
であることを
お忘れにならないで
くださいまし。


※小説の引用は『続若草物語』角川文庫 2008年 吉田勝江氏の訳からです。



もう一つのサンマリブログ『細雪』はこちらから

「あなたはジョーか?エイミーか?」若草物語ファンの十海ひかり主宰マリッジサロンはこちら↓
 





↑このページのトップヘ