婚活するヒロインたち 結婚に役立つ名作案内 「若草物語」「細雪」

名作文学のヒロインたちから現代に役立つ結婚の知恵を学びます。―いろいろあるけれど、最後には笑おう ― 次はあなたがヒロインです。

タグ:サンテマリアージュ辻堂

渡米前の井谷、最後の縁結びの奔走

蒔岡家の三女・雪子の今度のお相手は、子爵家の御牧実(みまきみのる)氏 45才。

縁談を持ってきたのは、いつもの高級美容院の経営者・井谷でした。

この御牧氏は家柄良く明るい社交家ですが、無職で浪費家という結婚相手としては、なんとも微妙な感じです…しかし井谷は乗り気で、姉の幸子にこう話しています。

自分としては
この縁を
逃してしまうのが

返す返すも
惜しい気がして
諦めが付かず、

だれか
自分の代りに
橋渡しの役を
勤める者は
ないであろうかと、


最新の美容術を学びにアメリカに渡る直前の井谷、縁談を進める時間がありません。後を託していくのに、出版社の国嶋社長とそこに勤める娘の名をあげます。

娘の光代も
お手伝いぐらいは
出来るのである。

あれは
年は若いけれども、
コマシャクレた
生意気な娘なので、

こう云うことには
向いているから、

連絡係りに
お使い下されば
相当役に立つであろう。

さすがにキャリアウーマンの井谷の血を引く娘、頼りになりそうな存在です。

細雪・御牧氏

井谷の見送りの機会を活かして

そもそもは、渡米する井谷を東京まで見送りに行くつもりだった蒔岡家の姉妹たち。

井谷の提案は、国嶋社長が送別会をしてくれるので、蒔岡家は「神戸側を代表すると云うことにして」その宴に参加すればよいと促しています。

そうすれば
御牧氏にも
出席して貰って、
自分が
お引き合せだけはする。

ま、話を進める進めないは
それからのことにして、


この際はただ
自分を見送りに
おいで下さるお積りで、

一遍会って
御覧になったら
どうであろう。


自分のための宴席すら、雪子の縁談に役立てようとする井谷の心意気です。さすがの雪子も御牧実氏に会うため、東京に向かうのでしょうか。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。


御牧氏との縁談の始まりはこちらから

井谷と蒔岡家の関係はこちらから

サンマリHPはこちらからサンテマリアージュ辻堂 十海ひかり 細雪 谷崎潤一郎 30代婚活 雪子と妙子 

辛辣な言葉で妹を非難する雪子

蒔岡家の四女・妙子と元カレ啓坊とは、過去に「駆け落ち事件」まで起こした仲。そして腐れ縁は続き、本家から勘当されるほど、啓坊は未だ妙子に貢いでいる様子です。

そのことを知った姉の三女・雪子は、妹のそんな身勝手な姿勢をこう非難しています。

利用出来るうちは
先途利用しといて、

もう利用価値ない
ようになった云うて、

低能の坊々に
好え口があるやたら、

一人で満州へ
行ってしまえやたら、

ようそんなことが
云えたもんや思うわ。………


金繰りの苦しくなった元カレと縁を切るため、妙子は、満州行きを積極的に勧めていた様子。男性とロクに口もきけない姉・雪子の思いがけない態度は想定外でした。

姉妹たちの啓坊を巡る満州行きの会話はこちらから


理路整然とした姉の話に妙子は

強気だった妙子もどうしようもありません。

申し開きの道がないのか、
あっても無駄だと観念したのか、

もう妙子は何を云われても
答えなかった。


それでも姉の追及は続きます。

ただ雪子のくどくどと
繰言のように繰り返す
言葉ばかりが
長々と続いた。

雪子の口調は
何処まで行っても
同じように
物静かであったが、

妙子の眼には
いつの間にか
涙が燦然と浮かんでいた。


末っ子で甘やかされていた妙子ですが、この後どんな行動に出るのでしょうか。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。



男性には内気な雪子の様子はこちらから








厳重注意の必要を感じて

かつての恋人啓坊から、今は貢がせていないと言い張る蒔岡家の四女・妙子

しかし三女の姉の雪子は、証拠をもとに冷静に論破し、そして妙子にこう言います。

一方では
板倉とあんな仲に
なってながら、

一方では
啓坊を経済的に
利用してる云うことが
分ってたんやったら、
考えようもあってんわ


板倉とは、妙子が二股かけていた相手。蒔岡家としては、妙子と板倉との身分違いの結婚に反対でした。しかし啓坊としっかり縁を切らせるなら、板倉との結婚もありでした。

acworks

共感と驚嘆をする次女の幸子

妹たちのやりとりを傍で聞いていた幸子はこう感じます。

幸子は雪子の
云っていることに
心から同感で、

妙子に対し
このくらいなことは
云ってやっても
よいと思わずには
いられなかったが、

でも自分には
到底此処まで
云えそうも ないので、

雪子がよくこう
云えるものだと、
驚きながら傍で
黙って聞いていた。

お見合い相手には口もきけない奥手な雪子の意外な一面でした。

過去にも雪子の弁舌は冴えていて

雪子の思いがけない理路整然とした反論を聞きながら、姉の幸子は「五六年も前」のことを思い出していました。

一度彼女は雪子が
義兄の辰雄を掴まえて

こんな具合に
攻め立てるのを
見たことがあったが、

内気な人は
どうかした拍子に
途方もなく強くなる
ものであろうか、


「日頃の因循な雪子に似合わず」と、義兄もすっかりやり込められていたのでした (^^;

日頃は大人しい姉からの思いがけないツッコミに、蒔岡家の甘やかされた末っ子・妙子はどう反論していくのでしょうか。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです




お見合い相手を怒らせた雪子の内気さはこちらから↓

サンマリHPはこちらから


姉の言葉に反論できない妙子

蒔岡家の四女・妙子は(過去に駆け落ちまでした)奥畑家の啓坊に、現在も随分と貢がせている様子。しかも姉たちには「頼っていない」と堂々とウソをついています。

姉・雪子はそれに対し、啓坊の婆やさんの示した領収証をもとに追及し始めました。

こいさん、
それ譃や
云うのんやったら、

何かそれに対抗する
帳簿のようなもの
見せてくれたら
どうやねん


妙子はというと「無言でじっと雪子の顔を見据えているばかり」です。

雪子はさらに続けます。

婆やさんの話やと、
そんなんはもう
何年も前からのことで、

洋服だけやあれへん、
あの時のあの指輪もそうや、
コムパクトもそうや、
ブローチもそうやと、

一つ一つ品物を
覚えてはって
云やはるねんわ。


貴金属販売

啓坊への依存がわかっていたなら

その気がないのに、啓坊を利用し続けていた妙子。関係を清算することを、雪子は勧めていきます。

啓坊が勘当されたのも、
こいさんのために
店の宝石を胡麻化したのが
原因や、云やはるねん

啓坊は素行を兄から疎まれて、勘当されていました(-_-;)

こいさん、
そんなに
啓坊との関係
断ちたい思うてた
のんやったら、

今迄にかて
何ぼでも
断てたやないの。

板倉の時かて
好え機会
やったのんに。………

板倉とは急死したカメラマンで、妙子の恋人のひとりでした。

そうかてあの時分、
縁切ることに賛成して
くれはれへなんだやないの。


板倉との交際を反対されていた妙子は不満げです。

これに対し雪子はというと…

あたし等は
啓坊と結婚させたい
思うたよってに、
賛成せえへなんだけど、


蒔岡家としては、家柄が釣り合う奥畑家の啓坊との結婚を望んでいました。

一方では
板倉とあんな仲に
なってながら、

一方では
啓坊を経済的に
利用してる云うことが
分ってたんやったら、
考えようもあってんわ


妙子のだらしなさは、旧家・蒔岡家としては見過ごせないところ。妙子と啓坊の結婚は「責任をとる」という様相を呈し始めました。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。

貢がせたあげくに縁を切りたがる妙子の様子はこちらから

サンマリHPはこちらから

大人の配慮を見せる橋寺氏

雪子
極端な内気さを「非常識」とされて破談となった橋寺氏との縁談。

雪子の義兄・貞之助お詫びの手紙に対し、橋寺氏から配慮に溢れた返信がありました。怒りを収め、雪子の内気さを美徳とする橋寺氏でした。

その返信の内容はというと…

…小生はかく考え、
双方のために
幸福でないと
信じたるが故に
御辞退申上げた
のであって、


御令妹に関し、
何か失礼な批評を
加えたように
お取りになっては
心外である。


電話では、仲介者の丹生夫人に
「あんな因循姑息なお嬢さんは嫌いです」と言っていた橋寺氏です (^^;

貴下の御家庭の
和気藹々たる情景は、
世にも羨ましい
限りであって、


橋寺氏は妻を亡くし、現在は忘れ形見のひとり娘と暮らしています。

1625963_s (2)

家族へのフォローも忘れない橋寺氏

社交家で、製薬会社の重役という立場にある橋寺氏。
一家の長である貞之助へのフォローも忘れません。

ああ云う
御家庭なればこそ

御令妹の
珠のような性格が
完成されたのであろうと
存ずる云々。―と、

貞之助と同じく
巻紙に毛筆で、
「候文」では
ないけれども、

よく行き届いた
ソツのない
書き方がしてあった。


いつまでも感情的にならず大人同士、ご縁のなかった話をキレイに終わらせたのでした。

ただ雪子さんだけが、裏方の苦労知らずで年を重ねていくようです。


※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。



橋寺氏の当初の怒りの様子はこちらから

サンマリHPはこちらから

丹生夫人のアドバイスも空しく

破談になった医学博士・橋寺氏と蒔岡家の三女・雪子の縁談。

雪子から不愛想な態度をとられ続けた橋寺氏は、「お断りせざるを得ない」と怒ります。同様の怒りは、仲介の労をとった丹生夫人にもありました。

丹生夫人は、知人の井谷にこう伝えました。

あたしも実は
雪子さんの
男性に対する
態度が宜しくない、

あれでは「陰気」と
云われるのも
当然と思ったから、


お見合いの時から、無口な雪子さんです (-_-;)

努めて
明朗な印象を
与えるように
してくださいと
忠告したのに、

雪子さんは
一向云うことを
聴いてくれるらしい
様子がなかった、


性格上「出来ない」のですが、「やらない」と思われてしまっています。

857665_s


幸子にも向けられる怒りの矛先

そして親代わりである姉の幸子にも、丹生夫人の批判は及びます。

あたしは
雪子さんよりも、

雪子さんに
ああ云う態度を
取らして置く
幸子さんの
気持が分らない、


もっと妹を、きちんと指導しなさいという意見です。

今時
華族のお姫様だって、
宮様だって、
あんなでよいと云う
法はないのに、

いったい幸子さんは
自分の妹を何と思って
いるのだろうかと、


今まで何人もお見合いを断って、「お高くとまっている」と非難されている蒔岡家。

ここにまた新たな破談が加わって、世間に悪いうわさが広まっていきそうです。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。



井谷からも注意を受けていた雪子さん

橋寺氏の怒りをかった電話事件はこちらから

サンマリHPはこちらから

誤解を招いた雪子の言動

破談になった医学博士・橋寺福三郎氏と蒔岡家の三女・雪子の縁談。

原因は(家族顔合せを兼ねた)神戸観光での雪子の態度にありました。極端な内気さからくる不自然な言動に、橋寺氏は不信感を募らせます。

それで翌日に、再確認の電話を雪子に入れたのでした。

然るに結果は
御承知の通りで、

橋寺氏は重ね重ね
耻を掻かされた、 


繰り返される雪子の不愛想な態度に、橋寺氏は怒り心頭です。

その事情を氏から聞いた仲介者の井谷が、雪子の姉・幸子にこう伝えました。

一昨日の時は、
でもまあ極まりが
悪いのであろうと
思っても見たが、

一度ならず二度までも
ああ云う扱いを受けては、

よくよく
嫌われているものと
取るより外はない、


23147874_s (2)

婚活では「お相手にどう伝わったか」が全てです。

あの断り方は、
わたしがあなたを
嫌っていることが
まだ分らないかと
云わんばかりの、
積極的な表示である、


お相手には、こう伝わってしまいました (-_-;)

そうでなかったら
いくら何でももう少し
如才ない云い方があろう、


橋寺氏は自身が社交家であっただけに、信じられない思いです。


橋寺氏が井谷に語った思いとは


そして雪子の言動は、こう解釈されてしまいました。

察するところ
あのお嬢さんは、

周囲の人々が
何とかして纏めようと
骨折っているものを

故意に打ち毀しに
かかっているのである、


周囲がどんなにお膳立てしても、縁談がまとまるかは、最後は本人のアクション次第

丹生夫人や、井谷氏や、
蒔岡家の兄上や姉上の
ご好意はよく分るけれども、

あれでは
そのご好意を
受けようにも
受けられない、

僕はこの縁談を
自分の方から
断ったのではなく、

断られたのだと
感じている、


あいまいな意思表示は、時にお相手や、その周辺の人まで傷つけます。

そして雪子さんの婚活は、またまたイチからスタートになったようです。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。



雪子の電話事件はこちらから

サンマリHPはこちらから

続きを読む

丹生夫人はけんもほろろに

医学博士・橋寺氏と蒔岡家の三女・雪子の縁談。橋寺氏からのデートの誘いを、内気な雪子は断ってしまいます。

その後すぐに、仲介者の丹生夫人から電話が入り、縁談の終わりが告げられます。平謝りの雪子の姉・幸子ですが、丹生夫人の怒りは解けません。

「いいのよ、幸子さん、
そんなに仰ってしゃって
下さらないでも。

いらしてなんぞ戴いちゃ
恐縮だわ」


と、聞くのもうるさいと
云わんばかりに云って、

幸子がオドオドしている隙に、

「左様なら」
と、切ってしまった。


実行力に富んだ丹生夫人だけに、見切りをつけるのも早いです (^^;

1361931_s

電話を切られた後の幸子は

こうしてあっけなく終わりとなった雪子の縁談、幸子はこう感じます。

今に夫が戻ったら、
厭でもこのことは
耳に入れなければ
ならないのだけれども、

……今日は
云うのを止めて、

明日にでも
気持が落ち着いて
からのことにしようか。


余りにも残念な結果に、話しづらい幸子です。

…夫がどんなに
ガッカリするかは
想像に余りあるが、

それよりも、
こんなことから
夫が雪子に愛憎を尽かす
ようにならねばよいが。


雪子の義兄・貞之助は、単独で橋寺氏に会いに行って話をつけたりと、今回の縁談では大変な活躍をしていました。

貞之助はこの残念な知らせを、どう受け止めるのでしょうか。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。



橋寺氏との縁談第一話はこちらから

物わかりの良さそうなことを言っていた丹生夫人

サンマリHPはこちらから

↑このページのトップヘ