婚活するヒロインたち 結婚に役立つ名作案内 「若草物語」「細雪」

名作文学のヒロインたちから現代に役立つ結婚の知恵を学びます。―いろいろあるけれど、最後には笑おう ― 次はあなたがヒロインです。

タグ:雪子と妙子

妙子にも上京を勧める井谷の好意

蒔岡家の三女・雪子の新たな縁談。

仲人役の井谷は、東京で催される自分の送別会の場に、お相手の御牧実(みまきみのる)氏も参加してもらい、雪子と顔合わせするよう画策中。

その際は蒔岡家の四姉妹のうち、関西に住む幸子・雪子・妙子の上京を促しています。

末っ子の妙子といえば、元カレに貢がせていたことがバレたばかり。関西社交界の評判が芳しくない感じです。

しかしその妙子に対し…

井谷は
終始一貫して、
いつも変らぬ
親身な態度で
遇してくれた。

そのくせ彼女の
不品行の数々は、

そう云う噂の
伝播し易い
美容院の主人である
井谷の耳には、

最も早く
這入っていた
筈であり、


井谷は高級美容院の経営者で、大変な社交家で世話好きなキャリアウーマンです。

裏の裏まで
知り抜いていたに
違いないのに、

妙子が男性関係にダラシがないことは、美容院に集う奥様方の格好の話題でしょう。

細雪:バーテン

井谷は
妙子のそう云う
暗い方面は
見ようとせず、

良い面ばかりを
認めてくれている
らしかった。


井谷の心遣いに感謝する妙子

どこかお嬢様の枠に収まりきれない妙子に対し、キャリアウーマンである井谷は寛容です。

妙子としては、
兎角雪子の縁談が
持ち上る度に、

何となく自分が
邪魔者にされ、
日陰者扱いされる
傾きがあるのに、


妹の不品行が、姉の縁談に差し障ってはというのが周囲の人々の心配。だからこそ…

井谷がそんな風に
云ってくれたのは、


雪子の縁談の席に妙子の同席を、井谷は勧めてくれました。

何も蒔岡家は
この妹の存在を
不名誉がるには
当らない、

それより妙子の
特色を認めてやって、

こう云う妹が
ありますと云って
堂々と世間へ
押し出すが
よいではないか、


と云うことを、
暗に諷して
くれている
ようにも思えて、


やはり自分の存在を認めてもらえるのは有難いこと。

今度の東京行きに
参加しなければ
済まなく感じられた
のであった。


こうして進められていく、雪子の新たなお見合い。

蒔岡家の姉妹たちは、このチャンスをものにすることができるのでしょうか。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。


四女・妙子の男性関係トラブルの話はこちらから
 
『細雪』の始まりはこちらから

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辛辣な言葉で妹を非難する雪子

蒔岡家の四女・妙子と元カレ啓坊とは、過去に「駆け落ち事件」まで起こした仲。そして腐れ縁は続き、本家から勘当されるほど、啓坊は未だ妙子に貢いでいる様子です。

そのことを知った姉の三女・雪子は、妹のそんな身勝手な姿勢をこう非難しています。

利用出来るうちは
先途利用しといて、

もう利用価値ない
ようになった云うて、

低能の坊々に
好え口があるやたら、

一人で満州へ
行ってしまえやたら、

ようそんなことが
云えたもんや思うわ。………


金繰りの苦しくなった元カレと縁を切るため、妙子は、満州行きを積極的に勧めていた様子。男性とロクに口もきけない姉・雪子の思いがけない態度は想定外でした。

姉妹たちの啓坊を巡る満州行きの会話はこちらから


理路整然とした姉の話に妙子は

強気だった妙子もどうしようもありません。

申し開きの道がないのか、
あっても無駄だと観念したのか、

もう妙子は何を云われても
答えなかった。


それでも姉の追及は続きます。

ただ雪子のくどくどと
繰言のように繰り返す
言葉ばかりが
長々と続いた。

雪子の口調は
何処まで行っても
同じように
物静かであったが、

妙子の眼には
いつの間にか
涙が燦然と浮かんでいた。


末っ子で甘やかされていた妙子ですが、この後どんな行動に出るのでしょうか。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。



男性には内気な雪子の様子はこちらから








妙子に結婚を懇願する婆やさん

蒔岡家の四女・妙子は、自由奔放な性格。しきりと女性の自立を標榜していますが、その実態は元カレの啓坊経済的に依存しきって暮らしているというものでした。

豪商・奥畑家で啓坊のお世話をする婆やさんですが、蒔岡家のお手伝いお春に、妙子の結婚を促すよう提案しています。

その言い分はというと…

どうせ勘当の
身の上なのだから 

そんなことに
遠慮しないで、
構わず結婚して
しまったら、


啓坊の父親は、妙子に良い印象を抱いていません。

そういつ迄も
反対し切れる
ものではないし、

却って新しい道が
開けるであろう、

今では実際の難関は、
母屋の意志より
寧ろこいさんの方にある、

今日のこいさんは
すっかり心変りしていて、

最早や
若旦那と結婚する気が
ないらしいからである

結婚する気がないのに、経済的に依存しているのですね (^^;

灘伏見

素行の悪さも妙子を想えばこそ?

そして婆やさんは、啓坊をこう弁護します。

世間知らずの
坊々であるから、
欠点を拾えば
いろいろあるには
違いないが、

少くとも
こいさんに対して
今も昔に変らない
純真な感情を
持っていることだけは
私が保証する


啓坊が遊び歩いていることに対しても、

それも
好きな人と
添えないために
焼けを起した
のであるから、

その心持は
察して上げて
ほしいのである。


啓坊からお金だけを引き出している様子の妙子。アラサーの彼女は、自身の結婚のことをどのように考えているのでしょうか。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。



妙子と奥畑の様子はこちらから

サンマリHPから

義理はないと言い張る妙子

蒔岡家四女の妙子は、腐れ縁の元カレ・啓坊を持て余し気味。

無職で遊び好きの啓坊に「皇帝のお附きで満州に行くこと」を熱心に勧めています。これに対し、姉の雪子は、今までの縁があるのだからと、妙子に同行することを勧めます。

関係の清算をしたくて渋る妹に、雪子はこう続けました。

義理がないと
云えるやろか

こいさんと
啓ちゃんとは、

世間の人が
誰でも知ってるほど
旧い旧い 関係やないの


啓坊とは過去に「駆け落ち事件」まで起こした仲です。

妙子はというと…

うちは疾うから
その関係を断ちたい
思うてたのんやわ。

向うが執拗うて、
勝手に附き纏うて
たんやもん、

義理どころやあれへん、
迷惑してるぐらいやわ


ほとんどストーカー扱いです (-_-;)

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姉の追及はそれでも続いて

しかし実はこの話より前に、啓坊の「婆やさん」から、姉たちは思いがけない話を聞かされていたのでした。それは妙子が、啓坊に経済的に依存しきっているという訴えでした。

雪子はさりげなくこう尋ねます。

こいさん、
経済的にもいろいろ
啓坊に厄介かけてることが
あるのんと違う?

―こう云うたら何やけど、
お金のことでも
世話になってるのんと違う?


核心を突く質問に対して、妙子はというと…

阿保らしい、
そんなこと絶対にないわ

ほんまかいな

雪子は「ほんまかいな」と取り合いません。

はたして婆やさんは、蒔岡家にどんな話を伝えていたのでしょうか。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。



妙子と啓坊の話の第一話はこちらから

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満州への同行を渋る妙子

蒔岡家四女で末っ子の妙子は、過去に啓坊とは「駆け落ち事件」まで起こした仲。

現在の妙子は関係の清算をしたくて、啓坊に「皇帝のお附きで満州に行くこと」を熱心に勧めています。それを聞いた姉の雪子は「一緒に行ってあげたら」と提案しました。

妙子はいやな顔をします。

うち、今が
啓ちゃんと別れる
好え機会や思うねん

ああしてられたら、
いつになっても
今迄の関係
清算する云う訳に
行かんさかいに、

一人で満州へ
行ってくれるのんが
一番ええねん。


そういう妹に対して、雪子はこうなだめました。

あたし等何も、
無理にこいさんを
啓坊と結婚さそう
云うのやあれへんで。 


昔の仲のアフターフォローで、ともかくも一緒にいってあげたら、という姉のアドバイスでした。

それに対して妙子は…

満州くんだりまで
附いて行ったりしたら、

なおのこと、
別れられへん
ようになるわ


気ままな独身生活を謳歌している妙子には、どこまでも気の進まない話 (^^;

対して雪子もなかなか引き下がりません。

そやけど、
よう因果を含めて見て、

それでも分って
くれはれへなんだら、

その時逃げて
帰って来たかて
ええやないの


灘伏見

意見が平行線のままの姉妹

「外国まで行って嫌なら逃げ帰れば」とは、裕福な姉妹ならではの大胆な意見。これに対して、妙子はこう言い返します。

そんなことしたら、
勤めも何も放っといて
跡追うて来るに
極まったある


啓坊もまた苦労知らずのお坊ちゃまです。

雪子は続けてこう妹を説得します。

そらまあ
そうかも知れんけど、
今迄の義理考えたら、

別れるなら別れるで、
ちゃんと
尽すだけのことは
尽さんといかんやろ、


姉たちは、妙子がいまだ啓坊と、ずるずると付き合っていることを知っています。

しかし妙子はというと…

うち、何も啓ちゃんに
そないせんならん
義理あれへん


本当に「そんな義理」はないのかどうか、ここから雪子の反論が始まります。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。

本人は渋る満州行き

蒔岡家の四女・妙子は(三女・雪子とは対照的に)外向的な性格。過去には、船場の貴金属商の息子、奥畑家の啓坊と「駆け落ち事件」で新聞沙汰になるほどでした。

その後、妙子は啓坊とは、つかずはなれずといった関係。そんなところに、時の満州国皇帝が、日本人のお附きを募集しているとの情報が入ります。

妙子も啓坊の兄たちも「うってつけの仕事」と勧めていますが、本人は渋り気味。

妙子から話を聞いた、姉の幸子はこう言います。

そら無理もないわなあ、
船場生れの坊々が
満州落ちをしやはる
のやよってに


これに対して妙子はというと、

けど啓ちゃんも、
今ではえらい
お金に困ってて、

もうあの家に
住んでられんほど
生活に窮してるねんわ。


啓坊は素行の悪さで現在、実家から勘当されています (^^;

そうか云うて、
大阪では
雇うてくれる人も
あれへんし、

あんまり
身を落す訳にも
行かんし、

こんなええ口は
又とあれへんねん


勘当したとはいえ、家族も旧家の体裁があって、仕事をえり好みするようです。

宮内府正門
長春(当時・新京)にあった皇帝宮正門 ※画像はWikipediaから

満州に行けばすべて解決?

啓坊の就職口に、姉の幸子も同調します。

そう云えばそうやわな。

―そう云う役は
誰にでも勤まる
云うもんやあれへん。

啓坊でなけりゃ
ならん役やわ。


皇帝のお附きになる条件は「素性のはっきりしている者」「ブルジョア育ちの、容貌が端正で儀礼や身嗜みの心得のある者」でした。

妙子はこう応えます。

そうやねん、
そやよってに
給料かて相当
出すらしいのんで、

うちも極力
すすめてるねんわ。

まあ長いことで
のうてもええ、
一二年そないしてたら、

兄さんかて
機嫌直しやはるし、
世間の信用も
附くやろうし、

どうでも一と奮発
しなさい云うて。


啓坊の再起には、うってつけの条件とタイミング、元カノの妙子も熱心に勧めているようです。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。



体裁を重視する奥畑の話はこちらから

庶民は一旗あげようと新天地を目指していました


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世間知らずは自分たちだった?

妙子の知人カタリナ・キリレンコが、イギリスに渡って玉の輿婚をしたというニュースが、蒔岡家の幸子にもたらされました。

幸子はその幸運に「あの程度の女性でも」と焦りを感じます。そこには、未だ嫁がせてやれない妹・雪子の存在がありました。

幸子はこう感じます。

お金持の男と
結婚して見せると云った
カタリナの言葉を、

世間を知らない若い女の
夢のような望み
とばかり思って、

好い加減に
聞いていたけれども、


幸子の住む世界の常識のもとに判断していました (^^;

カタリナのつもりでは
案外本気だったので、

自分だけの美貌があれば
そう出来ると云う
確信を持って

日本を立って
行ったのであろうか。…


夢を実現させるだけの自信があったのかと、幸子は考えを巡らせています。

晴空

カタリナの逞しさに落ち込む幸子

それに比べて、と幸子が思うのは、やはり自分たちの今現在のこと。

亡命の白系露西亜人の娘と、
大阪の旧家の箱入娘とを

比較するのは間違っている
かもしれないが、

でもまあ
カタリナのような
女もあるのに、

自分たち姉妹は何と云う
意気地なしであろうか。


妹たちの未婚にもなすすべもない、没落した旧家の行く末を、幸子は案じているようです。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。




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カタリナですら結婚できるのに

末っ子・妙子の知人カタリナ・キリレンコが、イギリスに渡って玉の輿婚をしたというニュースが、蒔岡家の幸子にもたらされました。

ロシア革命で日本に亡命した女性ですから、決して恵まれた境遇ではありません。

幸子は次のように感じました。

若いお金持の社長が
新規に雇った女秘書と
恋仲になって

遂に彼女を
妻に迎えるなん
と云うことは、
映画のストーリーに
あるだけで、

実世間にはめったに
あるものではないと
思っていたけれども、

やっぱり
そうでもないのだろうか。


いまだカタリナの掴んだ幸運が、信じられない幸子です。

ハイヒール(まぽさん)
リアルシンデレラストーリーを目の当たりにして

何もそんなに
飛び抜けた美人でもないし、 

凄腕がある訳でもない
カタリナ程度の女でも

そんな幸運を摑むことが
出来るとすると、

西洋にはザラにあること
なのだろうか。

「カタリナ程度」の女性でもと、納得がいかない幸子です。


日本では考えられないこと?


また幸子が属する階級の、結婚に関する厳格さと比較しても、戸惑いを隠せません。

かりにも
保険会社の社長で、
大邸宅に住んでいる
三十五歳と云う
初婚の紳士が、


外的条件では、恵まれたお相手ですね。

つい半歳前に
雇い入れたばかりの、

身寄りもなければ
氏も素性も全然分らない
渡り者の一女性と
結婚するなんて、

たといその女が
どんな美人で
あったにしても、

日本人の常識では
とても考えられないことだが、…


幸子は、以前の名古屋の大富豪・沢崎氏と雪子のお見合いのことを思い出したのかもしれません。

そして妹の雪子は、カタリナ以上なのに…と感じている姉の幸子でした。

※小説の引用は『細雪(下)』新潮文庫からです。



「沢崎氏と雪子のお見合い」はこちら

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